専門分野
心理言語学・計算言語学
研究目標
人間の情報処理、特に、言語とコミュニケーションに関わる側面について、心
理学・言語学・情報科学の方法論を併用して、明らかにしていきたい。
最近の研究テーマ
言語使用に関わる記号体系の定式化という作業を通じて人間の心の仕組みに迫
ろうという言語学の方法論が、会話音声における非語彙的な要素やノンバーバ
ルコミュニケーションに対してどのように拡張して適用できるか、について考
えている。
人間の言語使用のもっともありふれた形態は対面会話である。しかも、そこで
はしばしば、視線・姿勢・身振り・表情などの非言語情報を交えて、3人以上
の参与者でコミュニケーションを行なっている。このようなマルチモーダル多
人数会話の仕組みを定式化したい。
言語学の基本的な方法論は、基本要素を同定し、その範列的(paradigmatic)な
関係と連辞的(syntagmatic)な関係を同定することである。このような方法論
を、笑いやうなづきなどの音声的・動作的な非言語的要素に適用することで、
非言語要素の文法構造を明らかにするとともに、非言語要素の韻律論を展開す
る基礎としたい。
これまで数年間にわたって、音声言語のさまざまな特徴が話者交代やあいづち
などの会話調整機能にどのように関与しているかについて検討してきた。ここ
では、その対象を視線・姿勢・身振りなどの動作モダリティーに拡張し、非言
語によるメタコミュニケーションの仕組みを明らかにし
たい。
これまでの研究対象は、2人の話者による対話が主であった。そこでは、話者
交代やあいづちがいつ生じるかといったタイミングの問題が検討の中心であっ
た。しかし、3人以上の多人数会話では、「いつ」の問題に加えて、「だれ」
の問題が検討対象となる。ここでは、話し手・受け手・傍参与者などの役割が
どのような規則に従って移り変わっていくのかについて考えたい。
参考文献
- 伝 康晴. (2005).
情報隠蔽時のコミュニケーション行動の分析.
日本認知科学会第22回大会発表論文集 (pp. 412-413).
- 伝 康晴・榎本 美香. (2005).
聞き手のちょっとした振る舞いの相互作用について.
社会言語科学会第15回大会論文集 (pp. 238-241).
- 榎本 美香・伝 康晴. (2004).
3人会話における聞き手のちょっとした振る舞いについて.
社会言語科学会第14回大会論文集 (pp. 162-165).
- 伝 康晴. (2004).
会話の仕組みを知る.
電子情報通信学会ヒューマンコミュニケーショングループシンポジウム (pp. 27-34).
- 伝 康晴. (2003).
動作の言語学.
日本認知科学会「学習と対話」研究分科会, SIGLAL2003-2, 52-57.
- 榎本 美香・伝 康晴. (2003).
3人会話における参与役割の交替に関わる非言語行動の分析.
人工知能学会研究会資料, SIG-SLUD-A301, 25-30.
- 伝 康晴. (2003).
受け手になること、次話者になること---話者交代規則再考---.
人工知能学会研究会資料, SIG-SLUD-A203, 107-112.
社会言語科学会第11回研究大会予稿集 (pp. 160-165).
- 伝 康晴. (2002).
言語・非言語情報を統合したマルチモーダル会話コーパス.
人工知能学会全国大会(第16回)論文集 (pp. 3C5-05:1-2).
会話音声では、命題内容に関与しないような要素が頻繁に出現する。たとえば、
フィラー・言い差し・言い直し・繰り返しなどである。従来、これらはコミュ
ニケーション上のノイズとみなされてきたが、近年では、これらが重要な会話
調整機能を担っているという認識が広まっている。このような非語彙的要素の
役割を明らかにしたい。
ここ数年の研究により、発話の冒頭などで生じる語句の繰り返し(再開始)に
際して、末尾音の引き延ばしがよく見られることがわかった。このような音の
引き延ばしは、発話の滞りを聞き手に対して早めに告知する役割を担っている
と考えられる。しかし、引き延ばしは語句の繰り返しに伴うものばかりではな
い。ここでは、音の引き延ばしを全般的に検討し、それらがいつ、どのような
理由で起こるのかについて考えたい。
参考文献
- Yasuharu Den. (2003).
Some strategies in prolonging speech segments in spontaneous Japanese
In Proceedings of the ISCA research workshop on Disfluency in Spontaneous Speech (pp. 87-90).
Goteborg, Sweden.
- Michiko Watanabe and Yasuharu Den. (2003).
When and why do speakers prolong their speech segments?
In Proceedings of the 1st JST/CREST International Workshop on Expressive Speech Processing (pp. 71-74).
Kobe, Japan.
- Yasuharu Den. (2001).
Are word repetitions really intended by the speaker?
In Proceedings of the ISCA tutorial and research workshop on Disfluency in Spontaneous Speech (pp. 25-28).
Edinburgh, UK.
- Yasuharu Den and Herbert H. Clark. (2000).
Word repetitions in Japanese spontaneous speech.
In Proceedings of the 6th International Conference on Spoken Language Processing (pp. 58-61).
Beijing.
会話研究において何よりも欠かせないのは、良質なコーパスである。日本語に
関しても、現在までにさまざまな機関でコーパスの開発がなされてきた。しか
し、それらを統合的に管理しようという体制はいまだ整っていない。その理由
の一つには、コーパスの統合的管理に必要な枠組みというものが、形式的な形
で与えられていないことにある。ここでは、コーパスアノテーションの形式化
について考えたい。
コーパス表現の統一的なフォーマリズムを与える試みとして、Bird &
Liberman (2001)のアノテーショングラフがある。しかし、この枠組みでは、
アノテーションに用いられるタグ集合に対する制約(属性や関連性の規定)が
記述できないため、記述内容の妥当性について議論することができない。ここ
では、タグ集合に対する制約を言語学対象のオントロジーとして与えることに
より、アノテーショングラフを拡張する。
コーパスアノテーションは、複数の作業グループによる並行的な作業を伴う。
したがって、複数のグループによる作業結果をどのように統合し、一貫性を保
持するかといったことが重要な課題となる。従来、この問題は経験的に解決し
てきた。しかし、型構造付きアノテーショングラフの枠組みを用いることによ
り、この問題に理論的な解決を与えることができる。ここでは、トランザクショ
ンという概念を導入することでアノテーション過程を数学的に定式化し、一貫
性を保持するコーパスアノテーションというものを理論的に定義したい。
参考文献
- 伝 康晴. (2003).
コーパスアノテーション過程の形式化.
人工知能学会研究会資料, SIG-SLUD-A301, 19-24.
- 伝 康晴. (2002).
言語学的対象のオントロジー.
人工知能学会研究会資料, SIG-SLUD-A202, 39-44.
Written by Yasuharu Den (Last modified: 14 October 2003)